齋藤:特許や商標の取得だけでなく、標準化に踏み込こもうと考えたのは2017年頃でした。その2年後の2019年は標準化のビッグイヤーで70年ぶりにJIS法が改正になり、「日本産業規格」になりました。ここで初めて、サービス、データ、マネジメントシステムがようやく対象になったんです。
正林:日本では、GDPの7割がサービス業ですから、この改正は非常に遅かったと言えますね。そこで、知財を取って排他的な権利にしてしまうのではなく、標準化することで市場にプレイヤーを増やしマーケットを作り、その上、特許の力でベンダーとサプライヤーを巻き込もうと考えたのです。
齋藤:元々の強みである特許に加えて、標準化まで行うことで、お客様のビジネスへの貢献度がグッと上がっていきましたね。
正林:そうなんです。ちなみに燃料電池のハイブリッド特許を例えにお話しすると、まず、特許を公開することで、この技術を無料で使用できるようにします。自動車産業は水平分業なので、完成車メーカー単独での開発は難しい。そこで特許の力で、バリューチェンに必要な仲間を惹きつけることができます。単にアイディアを持ち込むのではなく、特許と一緒に持ち込むことでビジネスとしての解像度が上がっていく。正林で仕込んだ知財をきちんと解放することで、戦略的提携が実現するのです。
齋藤:ポイントはやはり特許です。ただの契約関係では、利益が上がった際に、それぞれの企業が自分最適に動いてしまいかねない。しかし、特許は、接着剤の役割を果たしますからね。
正林:例えば、上流のメーカーが発明のメリットを享受するためには、バリューチェーンの下流を標準化するという戦略があります。バリューチェーンの上流にいると、自分の作ったキーパーツがどのように組み込まれていくかはイメージできます。そこで下流の企業を集め、ベンダーに対して「ただで特許つきのコンセプトを解放する」と、その代わり、使用に当たっての契約を結ぶとか、出口となる商標で守るなどの戦略を立てる。そうすることで、自分が作ったバリューチェーンの市場全体が拡大して収益化できるだけでなく、既得権益も守れるようになるのです。
齋藤:いわば、ある知財を起点にしてバリューチェーン全体の競争力を上げることができるんです。
正林:標準化は、健全なマーケットの成長を促す取り組みです。日本企業はこれまで、標準化をうまく活用することができず世界で負け続けてきたんです。通信や半導体、ネットなど多岐に及ぶ業界で、です。
齋藤:私たちがお客様に提案しているのは、知財の国際標準化による新市場のルールメーカーになろう、ということ。
正林:この標準化に関しては、大企業もまだ遅れています。大企業もまだ知財の標準化はできていないんです。標準化を活用することで、企業同士がしっかりとタッグを組んで海外に一矢報いたい。知財が10年遅れているとしたら、標準化は30年遅れていると言っていいですね。